2019年10月4日に公開、映画「ジョーカー」。
今最も話題の俳優で、今作でゴールデングローブ賞の主演男優賞に輝いたホアキン・フェニックスの怪演を作り上げたトッド・フィリップス監督のこの最新作はこの現代をうまく生きられない人の象徴として、一人の男が悪魔へと変貌していく姿を描いた作品でした。
現代の全世界に警笛を、高らかに轟かせる衝撃作
「オーロラ銃乱射事件」
この名前を聞いたことがあるだろうか。
2012年。この悲劇はクリストファー・ノーラン監督が作ったダークナイト三部作の3作目「ダークナイト ライジング」の深夜上映中に起こった。なんとジョーカーの格好をした20代の男が劇場で銃を乱射し、70人が負傷し、12人が命を失ったのである。
その男は警察に拘束された時、自らのことを「ジョーカーだ」と名乗ったという。
そんな痛ましい事件の記憶が蘇るような出来事が起こった。
トッド・フィリップス監督作、映画「ジョーカー(2019)」の公開である。
この映画は、今までジャック・ニコルソン、ヒース・レジャーなどの俳優が演じて“怪演”と呼ばれてきたこのジョーカーという役を、まさに“怪演”する俳優で知られるホアキン・フェニックスが主演で演じるということで制作時から注目の的になっていました。
そこで人々の間では「オーロラ銃乱射事件」が思い出されたのです。
公開日が近づくにつれて世界に高まる緊張感。
当日には警察のみならず米陸軍までもが出動して警備を強化するほどの大騒ぎになりました。
間違いなく世界に衝撃を与えた作品であるこの映画「ジョーカー」ですが、
ゴールデングローブ賞で主演男優賞、ヴェネチア国際映画祭の最高賞 金獅子賞を受賞するほどに世界から高く評価される素晴らしい映画でもあります。
私の中でこの映画は間違いなく2019年公開の中でも最も“世の中に与えた衝撃が強い映画”であると思いました。
そんな「ジョーカー」を今回はご紹介させていただきます!
この映画「ジョーカー」はバットマンを苦しめる悪役であるジョーカーの誕生秘話を描いた映画です。
アメコミを題材にしている映画ではありますが、「アメコミに興味ないから・・・」と言って避けて通るには勿体無さすぎる映画です。
なぜならこの映画は
コミック「バットマン」の世界を題材にはしているものの、私たちの生きるこの現代社会の負の部分を描いた映画だからです。
バットマンのことは何も知らなくても“ひとつの映画として”完成されている映画になっていて、その内容は非常に考えさせられるものです。
また、マーティン・スコセッシ監督の「キング・オブ・コメディ」やアメリカンニューシネマ的な要素も多く取り入れられた映画として完成度の高い作品であるとも思いました。
この映画で投げかけてくるメッセージは現代に生きる誰にでも当てはまるテーマになっていますので、遠ざけずに沢山の人がこの映画と出会って欲しいと思います。
そんな映画「ジョーカー」のあらすじ・キャスト・感想などをまとめてネタバレなしのレビューでご紹介させていただきます。
金獅子賞 受賞
主演男優賞|作曲賞 受賞
主演男優賞|作曲賞 受賞
この映画をオススメしたい人
・バットマンやジョーカーが好きな人
・ホアキン・フェニックスの作品を観たことがある人
・上手に世の中を生きられず悩んでいる人
に特におすすめしたい映画です!
予告編・あらすじ
孤独で心の優しいアーサー(ホアキン・フェニックス)は、母の「どんなときも笑顔で人々を楽しませなさい」という言葉を心に刻みコメディアンを目指す。
ピエロのメイクをして大道芸を披露しながら母を助ける彼は、同じアパートの住人ソフィーにひそかに思いを寄せていた。そして、笑いのある人生は素晴らしいと信じ、底辺からの脱出を試みる。
(シネマトゥデイより引用)
『ジョーカー』のキャスト・制作陣
制作陣
【製作】2019年製作 アメリカ
【原題】Joker
【監督】トッド・フィリップス
代表作:「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」など
【音楽】ヒドゥル・グドナドッティル
キャスト
アーサー・フレック: ホアキン・フェニックス(「ザ・マスター」「ビューティフル・デイ」「教授のおかしな妄想殺人」などに出演)
母と2人で貧しい暮らしをしている売れないコメディアンの男。「どんな時でも人を笑わせなさい。」という母の教えを仕事にするために有名コメディアンショーに出ることを夢見ている。緊張してしまうと突然笑い出してしまうという精神疾患を抱えている。
その他キャスト
ロバート・デ・ニーロ「アイリッシュマン」 ザジー・ビーツ フランセス・コンロイ ビル・キャンプ シェー・ウィガム ブレット・カレン グレン・フレシュラー リー・ギル ダグラス・ホッジ ダンテ・ペレイラ=オルソン
おすすめポイント
ここからはこの映画をもっと楽しんで貰えるようにネタバレ無しのレビューでご紹介させていただきます!
観る前に見どころポイントを予備知識として入れて鑑賞しましょう!

① 狂っているのは自分なのか、世界なのか
「 どんな時でも笑顔で人を楽しませなさい 」
と母に教えられてコメディアンを目指す売れない大道芸人のアーサー・フレックが怪物ジョーカーへと変貌していく過程には何があったのか?
主人公 アーサー・フレックは病弱の母親と二人暮らしで、満足に食べる物も無く痩せ細り、まともな仕事も無く、貧乏な暮らしを送っています。それに、緊張してしまうと笑い出してしまうという精神疾患を抱えています。
やがて仕事も首になり、生活もままならず・・・不幸に不幸が連鎖して彼はどんどんと追い込まれていきます。
この映画を観ている人は世の中を上手く生きることができないアーサーの姿を見ることになります。
そこで描かれるのは
・世の中を上手く生きられない苦しみ
・社会に対してのストレス
・人生が不条理の連続である
つまり、この映画は単にコミックキャラクターを描いた映画では無くて上手く生きられなくて苦しむ全ての人々に向けた映画だということです。
私たちが生きている現代にもたくさんの貧しい人や、精神的な病を抱えた人が居ます。
この映画はそんな人たちに「社会がしっかり目を向けないとジョーカーみたいになってしまうぞ!」という強いメッセージ性が込められています。
生活の格差に関する問題は世界のどこの国でも深刻な問題となっています。そんな現代を象徴するような映画がこの「ジョーカー」なのです。
アーサーはカウンセリングの女性に『 狂っているのは僕か、世界のどちらか 』と聞きます。
仕事中に不良の子供にリンチされ、金を奪われ・・・会社に帰ると「勝手に仕事を放棄してるんじゃねえよ!」とボスに怒られる。
周りの人たちはアーサーのことを「 お前は変だ 」「 静かに“普通らしく”しろ 」と罵ります。
アーサーが狂っているのか?
世の中が狂っているのか?
この映画を観ている私たちにはどっちが狂っているのか、観ていくにつれてわからなくなってきます。
そんなうまく生きられないアーサーを狂っているとするのか、そんなアーサーを痛めつける世の中の方を狂っていると見るのかは観ているあなたに委ねられています。
『 狂っているのは僕か、世界か 』という投げかけはアーサーからこの映画を観ている私たちに投げかけられたテーマなのではないでしょうか。
この映画「ジョーカー」はまた観ている人によって解釈が分かれる映画でもあると思います。
今の自分の生活に満足している人は、「人に何か与えないと」と思うかもしれませんし、
上手く生きることができていないと思っている人は、アーサーの立場に強く共感するかもしれません。
2019年を代表する話題作は強いメッセージ性を通して観る人全てを試している映画でもあると私は思います。
② 現代に送るニューシネマとしての「ジョーカー 」
この映画「ジョーカー」が映画として凄いな!!と特に思ったのはアメリカンニューシネマを受け継いだようなストーリーです!
「タクシードライバー」「明日に向かって撃て!」「カッコーの巣の上で」などに代表されるムーブメントであるアメリカンニューシネマについてお話ししていきます。
アメリカンニューシネマとは
1960年代の後半から70年代にかけて発表された、社会体制に対して反抗的あるいは逃避的な人物を描写した作品群を指します。
その年代のアメリカは、ベトナム戦争の真っ最中でした。
国が戦う目的を失ったこの戦争は、アメリカ史に残る最大の失敗として今も語り継がれています。
その時代の国内はどんよりとと暗く、鬱蒼とした雰囲気に包まれていたようです。
(映画「タクシードライバー」では鬱蒼としたNYの街並みが印象的でした。)
そして映画界では、ハリウッドで夢物語のような映画を量産し続けていましたがそのスタジオシステムが崩壊してしまいます。
そこで起こったのがアメリカンニューシネマというムーブメントでした。
その中で共通しているテーマは『社会への反発』であり、当時の鬱屈した雰囲気に包まれていたアメリカという国に住む人々の心を表したようなストーリーが特徴的です。
この映画「ジョーカー」にもそれは共通していると思います。
今の現代社会には貧困層と富裕層の経済格差の問題や、人種差別の問題、いまだに世界のどこかでは戦争が起こっているなど、たくさんの問題を抱えています。
アメリカでは薬物で命を失う方がとんでもなく多く、私たちの住む日本でもたくさんの人が自らの命を手放してしまっているような現状です。
表面的には平和に見えても裏側では社会への不満が高まっているこの2019年を私は「1960〜1970年代のアメリカに似ているぞ」と思います。
この社会に対する人々の不満が溜まってきている今の時代に出てきたこの「ジョーカー」は、アメリカンニューシネマの作品群に共通する『社会への反発』という部分が当時の作品に共通していると思いました。
この映画「ジョーカー」はまさに現代のニューシネマであると思います。
アメリカンニューシネマの中では
「タクシードライバー」では
ベトナム戦争から帰ってきた主人公トラヴィスが鬱屈したNYに不満を感じ、社会の何かを変えようとして自分なりの“世直し”を考えた末に何も変えれずに命を落としました。
「カッコーの巣の上で」では
監獄から精神病棟に移ったマクマーフィーは徹底的に人の尊厳を奪う病院の体制を覆そうともがきますが、最後には不幸があり廃人になってしまいます。
「イージーライダー」では
大金を手にした2人の男が“自由”を探してバイクに乗って旅をします。沢山の人と出会う中で“自由”について考えながら旅を進めますが、アメリカには自由など無かったという話でした。
こうして見ると『社会への反発』というテーマの他に、『主人公が報われない』という共通点もあります。
この『主人公が報われない』という部分については、この映画「ジョーカー」ではどうなっているのかというところも大きな見どころの一つになっていると思います!
③ 社会の負の象徴としてのジョーカー
この映画はジョーカーをただのコミックキャラクターとして描くのではなく、社会の負の部分の象徴としてジョーカーという存在を作っているのが特徴的です。
つまり社会の負の部分が集まって凝縮されて抽出されるのがジョーカーということなんじゃないかと私は解釈しました。彼の存在は社会の負の部分を映した象徴であるように思います。
この映画の主人公アーサー・フレックは現代の社会が抱える経済格差、精神疾患、虐げられる生活などの問題社会問題を凝縮して1人の人物に詰め込んだような存在です。
そんなアーサーがどんどん不幸のスパイラルに飲み込まれて、追い詰められて現実なのか空想なのかの区別も付かなくなってしまって、弾けて誕生するのがジョーカーです。
今の世の中にもアーサーのような問題を抱えて生きている人が沢山いて、その問題はどんどん深刻化しています。
この映画はそんな現代社会の全員に向けた「社会がアーサーみたいな人に目を向けていかないとジョーカーみたいになっちゃうよ!」というメッセージが込められているように思います。
この映画のストーリーは観ている人に大きな衝撃を与えます。
その内容はエンターテイメントとして楽しむものではなくて、私たち投げかけてくる展開です。
度重なる不幸な展開、不条理な世の中という意味では映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」に近いものがありますね。
この残酷で不条理な世界の中で不器用に生きるアーサー・フレックが犯罪を起こしながら笑い続ける悪魔のようなジョーカーへと変貌してしまう姿は、単に“映画の中の出来事”ではなくて、現実にも十分起こりうることだと私は思います。
この映画「ジョーカー」は今の現代に非常にマッチした社会へのメッセージを描いた映画なので、今の私たちだからこそ、この映画を観るべきではないかと思います。
④ ホアキン・フェニックスという“怪物”
そしてこのジョーカーという特別な役を演じたのはホアキン・フェニックス。
彼はこの映画の役作りのために24キロも体重を落として撮影に臨んだと聞いていましたが、その骨が浮き出たガリガリの姿は痛々しいほどでした。彼の異常なまでに、作品にかける本気度が出ていたと思います。
そして、ジョーカーの象徴である笑い演技は狂気に満ち溢れていて圧倒的な迫力があると思います。
「ザ・マスター」では新興宗教の教祖と出会って人生が変わっていく男の姿
「ビューティフル・デイ」ではPTSDに苦しみながらも少女を守る殺し屋の姿
を演じて“ 怪演 ”と呼ばれていきたホアキン・フェニックスですが、
この映画「ジョーカー」での彼の演技は群を抜いていて、間違いなく彼の最高傑作になっていたと思います。ゴールデン・グローブ賞の男優賞を受賞するのも納得ですね!
この映画はホアキン・フェニックスの異常なまでの役作りと作品作りにかけるこだわりが完成させたんだと思います。
おわりに
ヴェネチア映画祭で最高賞 金獅子賞を受賞したことで世界的に大きな話題になり、この映画がきっかけで犯罪が生まれる可能性があるということで映画館に警察が出動する事態にも発展したほどの影響力を持つ映画「ジョーカー」。
社会に対してのメッセージを痛烈に投げかけたこの映画は必見の映画です。間違いなく「2019年の顔」的な映画になることでしょう。
社会の負の部分が積もり積もって結晶になり、1人の貧しい男が悪魔 ジョーカーへ変貌する姿を観ていただきたいです。
是非、悪魔が誕生する瞬間をご覧ください。
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