
この記事では一見すると理解が難しいこの映画に散りばめられた伏線やメタファーについて解説していきます。
面白い!!という人も面白くない!!という人も。賛否が分かれる映画なので、まだ前回の記事を読んでない方は先にこちらを参考にしてください!
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ミッドサマーの基本情報、あらすじ、ネタバレなしの感想レビューはこちらの記事で更新しています!
映画「ミッドサマー」は北欧文化を知ればさらに楽しめる!
この映画は架空のホルガ村というスウェーデンの場所を舞台に作られた映画です。
そこで主人公のカップルと友人たちは様々な狂気を体験することになりますが、
この物語の中には一度で理解するのは難しいほど北欧文化にちなんだ様々なメタファー(暗喩)や伏線が散りばめられています。
何も知らずにこの映画を観ても楽しめるのですが、その意味を頭に置きながら観ると監督の異常なまでのこだわりを感じれると思います。
ポスタービジュアルからもイメージができる通り新しい恐怖の形を描いた作品です!白夜の中で見る白昼夢のような本作を3倍増しで楽しめる予備知識を付けて劇場に足を運びましょう!
また、この記事ではネタバレに触れない範囲で予備知識を紹介しておりますので観る前の方でも安心して読んでください。

タペストリーの暗喩

映画冒頭で画面いっぱいに映る巨大なタペストリー。
左にはドクロ、右には太陽、中央には天国のような絵が書かれています。
このタペストリーをこの映画を観た後にもう一度見るとハッとするはずです。
そう!これはこれから起こる物語の内容を示唆している内容だからです!
しかし、これだけを見ても物語がどう展開されていくのかは全く想像がつかないような絵になっているのがなんとも憎らしい。
これは監督の遊び心なのかもしれませんね。
中盤にもラブストーリーが描かれたものが登場しますが、そちらはビジュアル的にも一度見たら忘れられないはずです。
この映画におけるタペストリーは『未来を示唆するもの』だと思います。
スペルに注目!ミッドサマーというタイトルの意味
ミッドサマーと聞いて「あ〜夏の物語なのね」とか思って観ていたのですがそれは大間違い。
英語では「Mid Summer」
スウェーデンでは「Mid Sommar」と表記するそうで、
『夏至をお祝いするお祭り』という意味です。
このミッドサマーというお祭りは実際にスウェーデン、デンマーク、フィンランド、ドイツなどで行われていて、その日には大きな火を起こして周りを踊り回るそうです。
夏至というのは
太陽が最も地球の北側に寄り、日中が長くなる日のことを言います。
北極など、一部の地方では一日中太陽が沈まない白夜と呼ばれる現象が起きます。
この映画はスウェーデンの架空の村ホルガで起こる白夜の9日間の物語になっています。
そこで90年ごとに1度開かれるミッドサマー(=夏至祭)に参加したアメリカ人学生たちが様々な狂気を目の当たりにします。
ちなみに、このタイトルの“文字数”にも秘密が隠されているので、後でまた触れます!
映画「ウィッカーマン」からの着想
1973年に制作されたイギリスの傑作フォークホラー映画。
この映画から着想を得たところが多いと監督も語っているとおり、様々な共通点があります。
「カルト」「宗教的な儀式」「生贄になる人間」「性的な意味を持つ儀式」「人間を生きたまま燃やす」など、様々なキーワードがこの作品と共通しています。
気になる方は映画「ウィッカーマン」について調べてみてください!
私はこの映画を観ていないのですが、観た人によると結構な共通点があるそうです。ウィッカーマンを観た後ではまた見え方が変わるかもしれませんね!
狂気の文化『血のワシ』
この映画で「羊たちの沈黙」のラストシーンのような人が鳥のように吊り下げられた描写を見るとは思いませんでした。
スウェーデンのある北欧地方ににキリスト教が行き渡るまでの間、この地方はヴァイキングが支配していました。
当時、暴力が支配する当時の北欧では生きたまま骨を引っ張り出して羽のように広げて鳥のような姿にし、そのまま放置するというこの方法が 実際に存在していたそうです。
この『血の鷲(Blood Eagle』と呼ばれる処刑法は「これがR-15指定の映画で登場してもいいのか?」と疑問に思うほど現代の私達が見るととてもショッキングな姿をしています。
しかし、現地の人にはあくまで文化として“一般的なもの”であることからも、この映画の狂気を更に煽る演出になっています。
この血のワシと化してしまうのは誰なのか?
それは観てからのお楽しみにしましょう!
『熊』が象徴するもの

劇中にところどころ登場するモチーフである『熊』も大きな意味が秘められています。
熊は北欧神話において重要なシンボルとして知られています。
有名な北欧神話の神様オーディンやヴァイキングたちは熊を崇拝し、実力を持っている戦士たちは熊の毛皮を被って戦っていたと言われています。
その熊に込められるのは『強さと繁栄』という意味です。
この熊に秘められた意味を知ってこの映画を見ると、熊が登場する演出の意味をより深く理解することができるでしょう。
この『熊』のモチーフは随所に登場しているので、注目して観てみてください!
隠された顔
ここは気づきにくいのですが、ダニーが立ったまま担ぎ上げられてディナーテーブルに向かうシーンに注目してください。
後ろの森の一部がよく見ると人の顔の様になっていることがわかります。
しかも、その顔の口元にはガスのチューブがあることから、これは冒頭で車の排気ガスを使って一家心中を図り、命を落としてしまったダニーの妹のテリーを意味していることがわかります。
妹テリの死がトラウマになってダニーを苦しみ続けるところからこの物語が始まるので、その重要な出来事をサブリミナル的に演出するという監督の遊び心かもしれませんが、ゾクッとしました。
アッテストゥパン(Ättestupa)という儀式の意味とは
この映画の舞台になる架空のホルガ村では『人生は季節と同じ』という文化があります。
それは生まれたときから年齢を重ねるごとに、春〜夏〜秋〜冬と季節が過ぎていくいう考え方で、冬を終えるまで生きている人は非常に幸福であると言われています。
そして、冬を終えた人がどうなるかというとこのアッテストゥパンという“身投げの儀式”によって天に還り、また新しい命として生まれ変わって村に帰ってくるとされています。つまり、後世に残されたものの為に生贄になるのです。
アッテストゥパン(Ättestupa)というのはスウェーデンで「崖」「絶壁」を意味する言葉です。
この儀式はスウェーデンで実際にあったと言われていて、自分の身の世話をできなくなった老人などが崖から自ら身を投げて命をたったそうです。
日本では昔、“姥捨て山”という文化がありました。
年老いたおじいさんやおばあさんに食べさせる食料が無い家族が、山に年老いた家族を捨ててくるというものです。
いずれも、“文化”として実際に存在していてその意味は『あとに残された者を想ってのこと』であることが共通しています。
つまり、善意から誕生した文化であることからこの作品の中でもそれを行う人は“お祭りの一環”として悪意無く、この儀式を行います。それが観ている人や主人公たちに狂気を煽ります。
この物語がどんどんとおかしな方向へと転がり落ちていくきっかけになるこのシーンは、この映画を印象つける重要なシーンになっています。

数字の「9」の意味
この映画には「9」という数字が非常に多く出てきます。
・9日間の及ぶ夏至祭が90年ごとに行われる
・9人の生贄
・ホルガ村のライフサイクルが
春=18才〜 夏=36才〜 秋=54才〜 冬=72才〜
とされていて、これらは全て9の倍数
・更には「Mid Sommar」というタイトルのスペルは9文字
といった具合に数字の「9」がいたるところに隠されています。
北欧神話で「9」といえば、
マイティ・ソーで有名なアスガルドを含む「9つの世界」から構成されていることから監督が着想を得たのかもしれません。北欧神話にとって特別な意味を持つこの数字を意識して観てみると面白さが増します。
他にも隠されているので隠れミッキー的な感じで目を光らせてみてください!
数字の「13」
これについては大きくネタバレに触れそうなので控えます。ごめんなさい!
劇中で「9」と「13」について意識して観てもらえればあなたもどこで登場するか気づくはずです。
この数字は実在した魔女の集会(Coven)の参加人数が意味することと同じなのかもしれないし、「13日の金曜日」に代表されるようなキリスト教では不吉な数字として有名です。
いづれにしても特別な意味をもつ数であることは間違いないでしょう!
ルーン文字

この映画にはたくさんの『ルーン文字』が登場することも印象的です。
ネタバレに触れるので詳しく解説できませんが、この映画を観終わった後で場面場面で散りばめられたルーン文字について調べてみると面白いかもしれません!
ルーン文字といってもたくさん種類があるそうですが、本作では劇中で「エルダー・フサーク(Elder Futhark)」と呼ばれる文字であることがわかります。
それはルーン文字の中でも最も古い体型であり、北ヨーロッパの最も古い記録では西暦150年頃から使われていたと言われています。
その後、ラテン語が登場して使われる言語が変わりましたが一部の地方では20世紀になってもルーン語が使われていました。
『ルーン』というのは「神秘」「秘密」といった意味が含まれていて、北欧神話ではオーディンがルーン語の呪文を使って死者を生き返らせたと言われています。
生贄の儀式アッテストゥパンの石版、服のデザイン、机の配置、部屋の壁のデザインなど。
様々な場所で登場するルーン語の意味を知ったら、もう一度この映画を観たくなることは間違いないでしょう!
まとめ
念の為、お断りしておきますがこの映画の舞台になっているホルガ村というのは架空の村です。実在はしません。
(実際に同じ名前の村はあるそうですが、監督は架空の村だと言い張っています。笑)
なので、今もこれらの文化が生きている地域があるにしてもあくまで“架空の村”が舞台のフィクションです。
しかしフィクションでありながらも実際に存在した、または存在している北欧の文化を取り込んだ演出に監督のこだわりが伺えます。
間違っても、軽い知識で実際に北欧にに足を踏み入れないようにしましょう。笑
この映画は非常に多くの伏線やメタファー(暗喩)が使われていて、知れば知るほどにもう一度観たくなるという魔力を持った映画でもあります。
白夜の中で見る9日間の悪夢を体感したあなたはその魔力に憑かれてしまうかもしれません。
心してこの映画を体験していただければと思います。
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