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真実とは?正義とは?それを考える映画『リチャード・ジュエル』

2020年1月17日に公開、映画「リチャード・ジュエル」。

89歳になるクリントイーストウッド監督が「この事件の記事を読んで映画化しよう」と動き出したノンフィクションの最新作は途中まで世の中への怒りの涙を流し、最後には安堵の涙を流してしまう素晴らしい映画でした。

 

正義とは?真実とは?を問う映画

89歳になるクリント・イーストウッド監督は歳を取るにつれて作品にキレが増しているように思います。

前作「運び屋」では「グラン・トリノ」以来で10年ぶりに監督と主演の両方を1人で務めるなど、87歳になっても“巨匠”の1人として、映画界の最前線で戦っているイーストウッド監督は本当に凄いですよね。

歳を重ねているとは思えないほどのペースで新作映画を作り続けているアクティブさと、
その反面、歳を重ねないと描けないストーリーの奥深さの両面が観れるイーストウッド監督の最近の作品はどの作品を観てもハズレがありません。

そして、実話ベースの映画を多く作っていることも特徴的な監督です。

今回の映画「リチャード・ジュエル」は実際に起こった『1996年のアトランタ爆破事件』を基にした映画です。

今までは「アメリカン・スナイパー」「15持17分、パリ行き」「運び屋」など、実話を基にした映画を多く手がけるイーストウッド監督の作品にはある共通点があります。

それが一番濃く出てきたのが、この「リチャード・ジュエル」なんじゃないかと私は思いました。

そのある共通点については、この後の見どころの部分でご紹介させていただきます。

 

この映画「リチャード・ジュエル」はメインのキャストである
リチャード・ジュエル役のポール・ウォルター・ハウザーとワトソン・ブライアント役のサム・ロックウェルの演技も素晴らしい映画でした。

特にサム・ロックウェルは「スリー・ビルボード」の時も素晴らしかったのですが、今作「リチャード・ジュエル」がサム・ロックウェルの最高傑作なんではないかと思います。

パラサイト 半地下の家族」や「フォードvsフェラーリ」と同時期に公開されていますが、その2つに比べてなんだか地味な映画っぽいイメージで埋もれてしまいがちな今作ですが、メッセージが胸を打つ感動はこの作品の方が強いと思います。

それではこの映画のあらすじ・キャスト・感想などをまとめてネタバレなしのレビューでご紹介させていただきます。

この映画をオススメしたい人

・実際に起こった事件から真実の意味を考えたい人
・メディアリンチされる芸能人の気持ちを知りたい人
・サム・ロックウェルに弁護されたい人
に特におすすめしたい映画です!

予告編・あらすじ

www.youtube.com

1996年、アトランタで開催されたオリンピックで爆破テロ事件が発生する。警備員のリチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)が爆弾の入ったバッグを発見したことで、多くの人々の命が救われた。
だがFBIは、爆弾の第一発見者だということを理由に彼を容疑者として逮捕。リチャードを担当する弁護士のワトソン・ブライアント(サム・ロックウェル)が捜査に異議を唱える中、女性記者のキャシー・スクラッグス(オリヴィア・ワイルド)の記事をきっかけに容疑の報道は熱を帯びていく。
シネマトゥデイより引用

スタッフ・キャスト

スタッフ

【製作】2019年製作 アメリカ

【原題】Richard Jewell

【監督】クリント・イーストウッド

【脚本】ビリー・レイ

【音楽】アルトゥロ・サンドバル

キャスト

リチャード・ジュエル: ポール・ウォルター・ハウザー(「ブラック・クランズマン」「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」などに出演)

市民を救った英雄と呼ばれた翌日に容疑者として疑われていることがメディアに知られ、一夜にして地獄のような日々に入ってしまった男。実在する人物です。

ワトソン・ブライアント: サム・ロックウェル(「スリー・ビルボード」「ジョジョ・ラビット」「コンフェッション」などに出演)

ジュエルが昔働いていた職場で弁護士として働いていた彼は、一夜にして英雄から容疑者へと仕立てられてしまった彼の無実を証明するために奔走する。

その他キャスト

キャシー・ベイツ ジョン・ハム オリビア・ワイルド ニナ・アリアンダ イアン・ゴメス

おすすめポイント

ここからはこの映画をもっと楽しんで貰えるようにネタバレ無しのレビューでご紹介させていただきます!
観る前に見どころポイントを予備知識として入れて鑑賞しましょう!

映画「リチャード・ジュエル」の映画ポスターです。|(C)2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC リチャードジュエルより引用
(C)2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC リチャードジュエルより引用

① 「1996年アトランタ爆破事件」について知ろう

この映画「リチャード・ジュエル」は『アトランタ爆破事件』という1996年に実際に起こった悲劇をクリント・イーストウッド監督が映画化した作品です。

そこでこの『アトランタ爆破事件』について軽く知っておくことでこの映画でイーストウッド監督が伝えたかったことが伝わる安くなると思いますので、少し予備知識としてご紹介させていただきます。

『アトランタ爆破事件』とは

事件が起こったのは1996年7月27日の夜。

つまり、1996年アトランタオリンピック開催期間中に発生しました。

事件があった場所はオリンピック公園の野外コンサート会場です。その会場ではフリーコンサートイベントが開催されており、オリンピックムードでお祭り騒ぎになっていました。

そんな中で、仕掛けられたパイプ爆弾が爆発。
その場でコンサートを楽しんでいた人や警備員達の内、死亡者2名、負傷者111名という凄惨な事件です。

ミュンヘンオリンピック以来の悲劇として今でも話に上がる恐ろしい事件だとして知られているのがこの『アトランタ爆破事件』です。

 

もっと大きな被害が出てもおかしくなかった状況の中で、
被害が最小限に止まったのは爆弾の第一発見者リチャード・ジュエルや、体を張って観客を守ろうとした警備員達が避難させ始めることができたからでした。

翌日、爆弾の第一発見者として避難誘導したリチャード・ジュエルは「多くの命を救った英雄」と称えられましたが、
3日後に「FBIがリチャード・ジュエルを第一容疑者として捜査中」だと言うメディアの報道が出たことによって状況は一変。

まさに「一夜にして全国民が敵に回る。」状況になったリチャード・ジュエルが無実の罪を証明することができるのか?

というのがこの映画「リチャード・ジュエル」のストーリーにもなっています。

 

この映画に出てくるのは

誤った報道をきっかけにしたメディアリンチを受ける人たち。

証拠がないなら作ればいい。と証拠をでっちあげるFBI捜査官

家に盗聴器を仕込まれ、家の物も全て没収されるという尊厳を踏みにじる人たち。など。

「実際にこんなことあっていいのか!」と思うような実際に起こった出来事です。

その中で私たちに問われているのは正義の存在でした。

この『アトランタ爆破事件』という悲惨な事件が過去に発生していたことを頭に置きながら、自分の中の“正義”を考えさせられてみてください。

 

② イーストウッド作品のある共通点

クリント・イーストウッド監督の作品は“実話に基づく”映画を多く撮ることが挙げられます。

その中である共通点があると思うので、その共通点を意識しながらこの映画「リチャード・ジュエル」を観ると更に監督が伝えたいメッセージを受け取りやすくなると思います。

 

“実話に基づく”イーストウッド監督作品

1.「バード」(1988制作)
大量のドラッグ摂取と飲酒で、34歳の若さで生涯に幕を閉じたジャズ界の巨人チャーリー・パーカー(通称:バード)の生涯を描いた映画。人間の表と裏を描く。

2.「ホワイトハンター ブラックハート」(1990制作)
映画「アフリカの女王」のジョン・ヒューストン監督を描いた映画。撮影そっちのけで象狩りに執念を燃やす監督の姿を絵描く。

3.「真夜中のサバナ」(1997制作)
美しいジョージア州のサバナで実際に起こった殺人事件を通して、保守的な南部の同性愛というセンシティブなテーマを描いた映画。

4.「父親たちの星条旗」(2006制作)
第二次世界大戦末期。硫黄島に星条旗を立てた写真にたまたま写った兵士たちが帰国後に“英雄”として祭り上げられる姿を描く。“神話”が人為的に作られる過程を追った映画。

5.「硫黄島からの手紙」(2006制作)
第二次世界大戦末期。凄惨さを極めた硫黄島を描き、両国の兵士の心情に何も違いがないことを示した作品。「父親たちの星条旗」と対になる映画。

6.「チェンジリング」(2008制作)
実際に起こった「ゴードン・ノースコット事件」をきっかけに悲劇に遭った女性を描いた映画。この地点からイーストウッド監督は映画作家として頂点を極めたと言われる傑作映画。

7.「インビクタス/負けざる者たち」(2009制作)
復讐を多く描いてきた監督が“和解”をテーマにネルソン・マンデラを描いた映画。対照的なテーマを作品の中で描くことを通して、希望の可能性示した映画。

8.「J・エドガー」(2011制作)
捜査局を“FBI”と改称して48年間長官の任についたJ・エドガーを描いた映画。大きな功績を残した“英雄”的な人物でありながら、そのやり方に大きな軋轢も生んだ人物を通してものの見方を考えさせられる作品。

9.「アメリカン・スナイパー」(2014制作)
イラク戦争で160人を殺害した伝説のスナイパーのクリス・カイルを描く。兵士として父親として苦悩しながら若くして世を去った彼の姿から“英雄”の存在について考えさせられる。

10.「ジャージー・ボーイズ」(2014制作)
フォーシーズンズの歴史を描く映画。メンバー4人のそれぞれの視点から見たバンドの栄枯盛衰していく姿を通して成功と没落の表と裏を描いている。

11.「ハドソン川の奇跡」(2016制作)
エンジントラブルからハドソン川の上に不時着したUSエア1549便の機長サリーを描く。犠牲者ゼロの奇跡から“英雄”と呼ばれるが、近くの空港に着陸できなかったか審議が起こる。

12.「15時17分、パリ行き」(2018制作)
テロリストがパリに向かう高速列車を襲った事件を描いた映画。一般青年3人がテロリストと戦いテロを阻止したことから人生は一転、アメリカで“英雄”と称されるようになるまでの過程を描く。

13.「運び屋」(2018制作)
実在した90歳の麻薬の運び人を監督自ら演じて描く。。1人の老人の行動から人生との向き合い方を考えさせられる深みのある映画。

14.「リチャード・ジュエル」(2019制作)
爆弾の第一発見者として被害を最小に止めた“英雄”として祭り上げられた男が、メディアによって容疑者として陥れられる姿を通して正義の存在を問う映画。

 

こうして見るとクリント・イーストウッド監督が“実話に基づく”ストーリーを映画にした全14作品のうち『 英雄 』というテーマを描いた作品が多いことがわかります。
(実話に基づいた作品だけで14作品はすごい!)

メディアに祭り上げられて“英雄”と呼ばれるようになった男たちの苦悩を描いたり、
本当に良い行いをした結果“英雄”と呼ばれるようになった若者たち、
“英雄”的な行動を取ったのにそれを疑われたり、といった存在を通して世の中の表と裏、人の中の内面と外面、苦悩と成功など。

人間のものの見方によって分かれる解釈を『 英雄 』と呼ばれた人たちの存在を通して描いてきたのがクリント・イーストウッド監督が作った“実話に基づく”ストーリーの中の共通点です。

また、アメリカという国家の闇の部分を描いた映画も多いですが、最後にはしっかりと希望が示されていることも共通点の一つだと思います。

人間の醜い部分を取り上げながら、人間の光の部分もしっかりと示してくれるクリント・イーストウッド監督の作品は、観ている私たちに“ 大切なこと ”を教えてくれているようです。

“実話に基づく”出来事を、様々な解釈の中からこんなに素晴らしいストーリーに仕上げるのはクリント・イーストウッド監督しかできないと思います。そして、それは彼が“ 巨匠 ”と呼ばれている理由かもしれません。

 

③ 誤った報道が起こした悲劇

「この物語は、今、我々の周りで起きていることとすごく似ている」

とこの映画のインタビューでクリント・イーストウッド監督が答えていました。

 

実在したリチャード・ジュエルは器用なタイプではないが、昔から“ 正義 ”を重んじる男でした。

将来は法執行官(警察など法律に関わる仕事)に付きたいと夢見ながら警備員として働いています。

そんな彼が警備中に不審なリュックサックを発見します。

彼はそれが爆発物かもしれない!と警告しますが、周囲の人はそれを聞いて笑います

しかし、調べて見ると爆発寸前のパイプ爆弾であることが判明し、リチャードのおかげで周囲の人を一足早く避難させることができました。

被害が最小限に止めたことから彼は「市民を救った英雄」と言われて各メディアが称えます。

その後に待っていたのはFBIにかけられた冤罪強烈で無神経なメディアリンチでした。

 

この映画を観た時、昨日までの『英雄』が、一瞬で『容疑者』になるという、「こんな酷い話があっていいのか!」と叫びたくなるくらいの出来事が実際に起こっていたなんて信じられませんでした。

なぜそんなことが起こったのかというと
・自社の新聞を売りたい新聞記者が、証拠がないのに“事実”だとして報道したり・・・
・FBI捜査官がリチャードが犯人だと決めつけて、それを記者に話してしまったり・・・
・リチャード自身も無実だからといって余計なことを話してしまったり・・・

様々な要因が重なって、捕まって有罪判決が出れば命を奪われるというところまでリチャードは追い詰められます。

私は「体を張ってみんなを守ったリチャードがなぜこんな目に遭わないといけないんだ!」という憤る気持ちが抑えられず、この映画を観ている時に悔し涙を流してしまいました。

それほどまでにこの世の中は不都合であると思い知らされます。

そして、監督の言葉に立ち返ってみましょう。

 

「この物語は、今、我々の周りで起きていることとすごく似ている」

と本作のインタビューで答えた言葉です。

 

これはSNSが発達しすぎている今の日本にも同じことが言えるのではないでしょうか。

地震が起こった時に「動物園からライオンが逃げ出した!!」と合成した画像をつけたツイートが物凄い勢いで拡散されて、真偽を確かめずにそのツイートを観た人が混乱して、実際に避難したというニュースを見たのは記憶にまだ新しいです。

クリント・イーストウッド監督は
この映画でリチャード・ジュエルという存在を通して社会に警笛を鳴らしているんだと私は思いました。

 

リチャード・ジュエルやその周りの人たちが実際に体験したことは決して人ごとではなく、私たちの身近なところにも存在しています。

そして、世の中が言う正義と自分が持つ正義は違います。

情報がたくさん溢れている社会だからこそ、自分の中に“ 正義 ”を持つことが大切なんだ!

とクリント・イーストウッド監督からこの映画「リチャード・ジュエル」を通して受け取ることができると思いました。

 

非常に考えさせられる映画ですが、ストーリーはシンプルに仕上がっているのがクリント・イーストウッド監督作品の良いところです!

あなたも怒りの涙を流し、安堵の涙を流してこの映画を見終わった後に監督が伝えたかったメッセージについて考えてみてください。

 

おわりに

クリント・イーストウッド監督は私の中でも特に好きな監督の1人です。

過去作品の「硫黄島からの手紙」&「父親たちの星条旗」や、「アメリカン・スナイパー」「運び屋」「15時17分、パリ行き」などは特に好きな作品で、初めて観た時の感触は今も忘れることができません。

そのどれもがイーストウッド監督のメッセージを一貫して伝えているのですが、
どの作品も別の種類の感動を味わえることが本当に素晴らしいと思います。

 

89歳になるクリント・イーストウッド監督は
毎年のように新作映画を出しているほどアグレッシブさを増している一方で、
作品を出すごとにストーリーの深みが増していっているというように思います。

もしかしたら、イーストウッド監督は今が全盛期なのかもしれません。

そんな監督も89歳です。

いつ引退してもおかしくない年齢で、今も新しい作品と作り続けている監督はすごい!の一言ですが、
いつまでも健康的で長生きして、新しい作品を元気に作る監督であり続けて欲しいです。

これからもたくさんの大切なことを映画を通して教えて欲しい。

と思います。

 

そんな気持ちもあってか、この映画「リチャード・ジュエル」は心から沁みました。

エキサイティングなエンタテインメント映画を求めている人にはおすすめ出来ませんが、映画というものの存在から何かを学びたい人はイーストウッド監督の作品をおすすめします。

2020年代の新しい幕開けを祝するように素晴らしい映画のラッシュになっていますが、

この映画「リチャード・ジュエル」を私は強くオススメしたいと思います。

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